「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」(平成28年4月20日策定、平成31年4月25日改定)をご存じでしょうか。

広島県呉市、東京都荒川区、埼玉県などの取り組みを参考にして策定されたプログラムで、保険者における糖尿病性腎症重症化予防の取り組みを通じ、被保険者の健康の保持・増進を図ろうというものです。

図をクリックすると詳しい情報が見ていただけます。
出所:厚生労働省 糖尿病性腎症重症化予防プログラムについて(平成28年4月20日策定。平成31年4月25日改定。)

かかりつけ医も協力を求められるこのプログラムは、医療費適正化にもつながると期待されています。

以前、「それいゆ」は、この「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」のお手本となった、広島県呉市にお邪魔し、福祉保健部福祉保健課 前野 尚子さんにお話を伺いました。

バックナンバーから、ご紹介します。

呉市ターミナル「呉市フォトバンク」より
‐糖尿病性腎症重症化予防プログラムで注目を集めていますね。「予防医療の聖地」と言われることもあるとか?

呉市の取り組みが全国的に広がっていく事は素直に嬉しいです。患者さんへのきめ細やかな教育や支援で、病気の重症化が予防できるなんて素晴らしい!と心から思っていますから。ただ、呉市の事例はあくまで呉市のもの。他の市町さんが、同じデータシステムを導入しても同じ結果にはならないのではないかと危惧しています。重要なことはシステムではなく、システムを動かす人のマインドです。

システムを動かす人のマインド?

自治体と地域の皆様が心を一つにできるかどうかです。呉市国保は、レセプトデータを用いて疾病と医療費の関連を分析しました。その結果、糖尿病と脂質異常症、高血圧症の人数が多いこと、人数は少ないけれど医療費が突出して多いのが人工透析患者であることがわかりました。そこで人工透析のリスクがある人に生活習慣病等の改善を促すことで、患者のQOLを高めつつ医療費適正化につなげようと計画しました。ここまでは、自治体の力でできます。しかし、そこから先は地域の力です。計画を実行に移すためには、医師会さんはじめ開業医の先生たちのご理解とご協力が必要です。呉市は、医師会さんを通じ多くの主治医の理解も得られました。これが幸運で全国から注目されるような成果が上げられたのだと思います。

そもそもなぜレセプトデータを分析し、予防医療に活かそうと考えたのですか?

財政難からです。呉の国保の医療費は国や県より高いのです。図を見ていただくとわかるのですが、赤い棒グラフが呉市、真ん中の紺色の棒グラフが県、水色の棒グラフが国、全国の1人当たりの医療費です。とにかく突出しているでしょう?。

人口223,685人 (R1年度当初)うち国保加入者 42,842人 (人口の約19%)
高齢化率(R1年度当初)34.8%(参考:全国27.3% H28.10月 )
高齢者人口 77,922人 (後期高齢医療被保険者数 42,467人)
呉市国保加入者の高齢化率 57.0%
<参考> 平成29年度 呉市 56.6% (広島県 47.2% 全国38.6% H28年度)
介護認定率(平成30年9月末) 呉市17.6% (広島県19.3% 全国18.3%)
医療の状況400床以上の病院→3機関
一人当たり医療費(平成29年度) 45万9千円 (県の1.13倍,国の1.28倍)
呉市提供
財政難となった理由はなんでしょう?

同規模レベルの市町に比べ高齢化が進んでいること。それから医療環境が充実しているためです。旧軍港の歴史を持った呉は、戦前戦中は、軍の基地があり、軍艦、軍人が集結していました。戦後も世界最大のタンカーを建造する有数の臨海工業都市として発展しました。今も私たちの健康を守ってくれている医療センターや共済病院は、もともと海軍病院として創設されたものなんです。その時に充実した医療体制が残っているのです。

ああ…たしかに街の規模のわりに、大病院が多いですよね?

22万程度の人口に対し、400床以上の病院が3つあります。そのほかに200床規模の病院もあります。この恵まれた医療資源を維持するためにも、財政健全化は必要だったのです。

どのように医師会に協力要請をしたのでしょう?

目的を正直にお伝えしました。「私たちは、現在の医療保険制度を持続可能なものにしたい。そのためにどうしても必要な取り組みだ」とお話をしました。支払側ですから、医療機関の方から敵対視されているところもあるのですが、厳しく審査するのも制度を守っていきたいから。私たちは敵味方ではありません、という気持ちで臨みました。

呉市のことが大好きなんですね。

呉で生まれ育って、ここから離れたこともありません。呉のことを大事に思っています。街の人たちの暮らしを良くしたいと思って働いています。市の他の職員も医療機関の皆さんもそういう思いなのですが、立場が違うとうまくかみ合わないこともありますよね。そこを一度フラットにして、「地域のために何ができるか」という視点で進めていかなければならないと思います。

市役所職員の前野さん。呉市モデルが国からの注目度も高いとあって、登壇やインタビューの機会も数多い。福祉保健部高齢者支援課 課長補佐。
支払側と医療機関、それぞれの想いが通じ、呉市モデルができたと?

そうでなければこの事業はうまくいかなかったでしょう。その後も何か取り組みを開始するときは、開業医の方や薬局の皆様の協力を仰いでいます。呉は、医療費削減の近道として、まずジェネリック医薬品の推進をしましたが、この時も慎重に地元の医師会さんや薬剤師さんと複数回の協議を重ね進めました。

インタビューのむすびに
COVID19により世界中が混乱する中、試されている地域力。

「それいゆ」で呉市の取り組みを取材したのはCOVID-19以前でしたが、地域を想う気持ちで支払い側と医療機関等が一つになった呉市モデルのマインドは現下の情勢でも参考になるものと考えます。

財政難を契機に、呉市では、まず レセプト点検の充実・効率化およびレセプト情報の活用による医療費等の分析を行い、短期で効果のある施策として、ジェネリック医薬品の使用促進通知、医療費の伸びが大きく、医療費が高額な疾病への対策、重複・頻回受診者、生活習慣病放置者等への適正受診に向けた訪問指導、特定健診データとレセプト情報との参照による受診勧奨、併用禁忌・回避医薬品処方情報の提供を行っています。

これらの具体的取組はまた後日ご紹介しますね。

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