LifeStory

看取った方のご家族の落ち込みが強いです。乗り越えるための声掛けを教えてください…

悲嘆には,「通常の悲嘆」と「複雑性悲嘆」があります。

「通常の悲嘆」は一過性の反応です。現れ方には個人差がありますが、心理面だけではなく、身体面、認知面、行動面において変化があります(下表参照)。全てが現れるわけではありませんが、このようなことがあるということを念頭において対応されるのが良いでしょう。期間も個人差が大きいです。ショック期という急性期の状態が1〜2週間、悲嘆にとらわれている時期が数週間〜半年間とされているものもあります。しかし、悲嘆の過程は、直線的に進んでいくものではなく、浮き沈みを繰り返しながら進んでいきます。そのため、ある期間で区切ることはできません。

身体的反応睡眠障害,食欲低下,易疲労,胸のしめつけ感など
心理的反応悲しみ,怒り,罪悪感,不安,孤独感,消耗感,無力感, ショック,思 慕,解放感,安堵感,感情の麻痺など
認知的反応非現実感,混乱,故人へのとらわれ,故人がいるという感覚,幻覚など
行動的反応うわのそらの行動,社 会的引 きこもり,故人を思い出すものの 回避 ,探索的行動,過活動,泣く,故人の所有物を大切にするなど
引用:「いのちの終わりにどうかかわるか」 木澤義之他 編 医学書院

まずは、ご家族の落ち込みが、通常の範囲なのか、通常の範囲とは言えない不適応状態である複雑性悲嘆なのかを見極めていく必要があります。明確な線引きは難しいため、詳細は専門書等を参考にしてください。

例えば、現実を完全に否定している、持続的に支援を拒否する、アルコールや薬物の乱用があるというのは通常の悲嘆では見られにくいので、注意が必要です。

今回は、通常の悲嘆であるという前提で、私が大切にしていることをお伝えします。

①悲しいことは通常の反応であることを伝える

故人や死別について他者と対話して、悲しみの感情を表出させることは、悲嘆のプロセスにおいて重要な役割を持っています。「そんなこと言わないで元気出して!」など無理に元気付けることはしないでください。悲しみは正常な反応として、寄り添った言葉がけをすることが必要です。悲しみは、失ったことが、それだけ大切であることの裏返しの反応なのです。悲しみを否定することは、悲しみの奥にある、大切に思う気持ちまで一緒に否定されるようなものです。

②感情を表出できるというのは信頼の証

感情を表出できる場があるというのも悲嘆においては重要な役割を持っています。あなたにその感情を表出してくれているのだとしたら、それはあなたに対する信頼の証ではないでしょうか。「話してくれてありがとう」など、信頼して話してくれたことに対する感謝を伝えると関係性はより良いものになっていきます。

③あなたの中にも悲しみがあったら、それを隠す必要はない

手術前や救急受入れの時などに医師が感情を見せていたら不信感につながることがあります。それは対象が「人」ではなく「疾患」とか「出来事」だからです。ところが、対象が「人」である場合は、自分の感情を正直に他者に伝えることが相手との信頼関係を育むことになります。

例えば、僕が「この記事の内容には自信がない」と書いていたらちょっと不信感をもちますよね。ところが、読んでくださるあなたに対して、「役に立ちたいと思っているからどれくらいお役に立てるか気になっています」と伝えたらどうでしょうか。ほうほう、じゃあ、ちょっと優しく読んでやろうじゃないか、とか、思ってくれませんか?

そのご家族に対して、あなたが心配している気持ちそのものが、ご家族にとっては癒しになると思います。そして、あなた自身も、故人に対して悲しい気持ちがあるのだとしたら、ご家族とそれを共有することが、あなた自身の癒しにもなります。僕は、医療従事者自身も幸せでいることが大切だと思います。


福田 幸寛 (ふくだ ゆきひろ)
総合診療医×産業医×コミュニケーションコーチ

東京医科歯科大学附属病院で理学療法士として従事しながら医師を志す。2013年医学部卒業。名古屋大学附属病院救急科で救急外来と集中治療を学ぶ中で、人生に寄り添う医療をしたいという原点に立ち返る。筑波大学総合診療プログラムで家庭医療専門医を取得。

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佐々木直隆、岡伊津穂、中林梓、長幸美、納見将志、岩尾篤、石井洋、福田幸寛、新改法子

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