今回のテーマは、「副業・兼業」を認める場合の労務管理です。前提として、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは本来労働者の自由である、という考え方があり、副業・兼業を企業が制限することが出来る場合として、裁判例では

①労務提供上の支障がある場合、

②業務上の秘密が漏洩する場合、

③競業により自社の利益が害される場合、

④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

に、副業・兼業を制限することが出来る、とされています。

平成30年1月に厚生労働省が改定した就業規則のモデルにおいても、勤務時間外に副業・兼業を認める条文となっており、実際に収入のアップや社内で得られない知識や経験の獲得を目指して副業のご相談も少しずつ増えているという印象です。

では、今後職員から副業・兼業の希望があった場合、どういった点を留意して対応すべきでしょうか。(副業・兼業の促進に関するガイドラインが令和2年9月に更新されています。)

(1)副業・兼業を認める場合の確認点・申請書式について

 副業の希望があった場合、会社(本業)としての懸念点としては、

 ・同業に勤務することにより、会社の営業機密やノウハウ、個人情報が流出しないか

 ・2社に勤務することにより、労働時間が増加し、本業に影響が出ないか。

・過労等により健康管理上の問題が生じないか

という部分です。

上記のような懸念を払拭するため、自社の職員から副業・兼業の申し出があった場合には

〇副業としてどういう業務に従事するのか(就業場所含む)

〇フルタイムで働くのか、パートタイムで働くのか(働く日数も)

〇労働日、休日、時間外労働の有無・休日出勤の有無

等を副業・兼業申請書等の提出により、把握して、労働条件を正しく把握する必要があります。なお、この申請書等の提出により、副業・兼業によって長時間労働等による労務提供上の支障が生じた場合や業務上の機密が漏洩する危険が生じる場合には、副業・兼業を禁止または制限することが出来ることとされています。

(2)副業がなされる場合の労働時間管理について

 副業・兼業の前提として労働基準法第38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しており、「事業場を異にする場合」とは、同一使用者のみならず、会社を異にする場合も含まれると解釈されています。(労働基準局長通達昭和23年5月14日付基発第769号)

 そこで、職員が副業を行う場合には、会社は本業(自社)と副業で働く場合の労働時間の通算が求められ、労基法上の時間外・休日労働の上限(単月100時間未満、複数月の平均80時間未満)についても通算した労働時間により判断する必要があるとされています。(ただし、労基法が適用されないフリーランスや独立、コンサルタント、顧問、理事・監事等については、通算されません。)

(3)時間外割増をはじめとした給与の支払い方について

各々の使用者は、自らの事業場における労働時間制度を基に、他の使用者の事業場における所定労働時間・所定外労働時間についての職員からの申告等により、

● まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算する。

● 次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、

それぞれの会社での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、その労働時間について、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金(労基法第37条第1項)を支払う必要があります。上記の文章のみでは分かりにくいため、説明すると、

(例)医療機関A:先に雇用契約を締結

 所定の労働時間1日3時間(7:00―10:00)-①

 当日発生した所定外労働2時間(10:00―12:00)-②

 合計5時間

医療機関B:Aの後に雇用契約を締結

 所定の労働時間1日3時間(15:00~18:00)-③

 当日発生した所定外労働時間1時間(18:00―19:00)-④

 ①+②+③で8時間に達するため、④の1時間は時間外労働として1.25倍の割増賃金を支払う必要があります。他にも副業・兼業の促進に関するガイドラインが分かりやすく解説されていますので、興味がある方は是非ご覧ください。

石井洋
社会保険労務士/(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長/長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。 石井のコラム

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