介護現場の課題はなんといっても人材確保。どの施設もこの問題に頭を悩ませているのではないでしょうか。そこで今回は、職員の定着率が高く、人材から人財へと導くことに定評がある「デイサービスファイン」さんをお訪ねしてみました。こちらの施設によれば、職員定着の秘訣はマインドフルネスにあるそうです。

松藤宗一郎社長とパートナーのことみさんにお話しを伺いました。お二人とも作業療法士です。

松藤ことみさん
作業療法士/日本マインドフルネス研究センター代表/MBSR(マインドフルネスストレス低減法)指導者トレーニング受講中(2021.4~2023)

マインドフルネスについて教えてください。

(ことみさん)1979年に分子生物学者のジョン・カバットジン氏がヨーガや仏教瞑想をはじめとする東洋的な業法を体系化した理論(マインドフルネスストレス低減法/MBSR)です。集中力やパフォーマンスのアップに効果的として、海外では医療や教育の分野で注目されています。Googleが社員研修に取り入れたことで日本でも広く知られるようになりました。ご存じないですか?

Google「SIY」は読みました。あの本によれば、Googleは、マインドフルネス瞑想を導入しているとありましたが…。マインドフルネスとは瞑想のことですか?

(ことみさん)少し違います。マインドフルネスは、「心」や「意識」の捉え方です。「今ここ」にある、「ありのままの状態」を見ること・気づくことをいいます。そのために使われる手法の1つが瞑想です。マインドフルネス瞑想は、「心」の注意を「今この瞬間」に向け整えるトレーニングで、Googleはこれを導入しているんです。

2016年出版されたグーグル発マインドフルネスの実践本。サーチ・インサイド・ユアセルフとは、文字通り、立ち止まり、自らを探求すること。

「マインドフルネス」が「心の捉え方」というのはわかりました。しかしなぜ、マインドフルネスや瞑想を取り入れると、職員の定着率がアップするのですか?

(松藤社長)リーダーがマインドフルネスな状態になれば職場がおだやかになります。そうすればリーダーの周りの人間関係が良くなるのです。その結果、職場全体の雰囲気が良くなります。

デイサービスファイン代表取締役社長の松藤宗一郎さん/作業療法士

(ことみさん)誰でもイライラして思わず周囲にあたってしまった、という経験はあると思います。マインドフルネスな状態でいれば、そういう「思わず~~~した」というようなことが少なくなります。感情的にイラっとしたとしても、「私は今、イラっとしている」と気づくことができますので、「とっさ」に怒ったりすることが減るのです。そして、その次の行動を自覚的に選べるのです。

反応的な対応の減少は虐待防止にも貢献しそうですね。介護現場は職員のストレスや感情コントロールの問題から、利用者さんに厳しい態度で接してしまうこともあるといいます(※)。

(松藤社長)それはありますね。利用者さんに「思わず」きつい物言いをしてしまい、後で落ちこむ人もいますね。それに医療や介護に関わる人は基本的に優しいので、相手に共感しすぎて疲れてしまうことがあります。

厚生労働省令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果によれば、養介護施設従事者等による高齢者虐待の発生要因は、「教育・知識・介護技術等に関する問題」に次いで、「職員のストレスや感情コントロールの問題」が多い。「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」も上位。気持ちのコントロールはとくに重要。

参考:令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(2021/07/01確認)
https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/000708459.pdf

いわゆる共感疲労ですね…

(ことみさん)そうです。介護の問題点で苦しんでいる人も多いです。しかし、マインドフルネスが実践できれば、「今、私は疲れている」と認識できますから、適切に休息をとったり、リフレッシュしたり、自分を慈しむ行動を選ぶことができます。そうすれば、ネガティブな状況に陥っても前向きな気持ちを持ち続けられるようになります。人に優しく接する介護職だからこそ、自分を満たすことが大事だと感じます。

「瞑想」なんて聞くと、「なにか特定の宗教に入らないといけないかも」と勘違いされませんか?

(ことみさん)瞑想の起源は、仏教や禅ですが、マインドフルネスは宗教性を切り捨て、テクニックのみを抽出したスキルです。宗教色はありませんよ!

(松藤社長)私たちは医療者です。科学的根拠(エビデンス)のある方法としてマインドフルネスを取り入れています。より学術的な提案をするために、県立広島大学の久野真矢教授の力も借りています。

\久野教授にお話しを聞いてみました/
久野真矢教授

マインドフルネスに関する研究は、ここ10年の間に急増しています。たとえば、2015年にClarkeらはうつ病の再発防止に関するメタアナリシスの結果を発表しました。この分析は29の論文と、それらの研究に参加した2,742人が対象となったものですが、結論としては、マインドフルネスを受けたグループは、12ヶ月後におけるうつ病の症状の再発リスクが22%減少していました。メタアナリシスなので、マインドフルネスによる効果は科学的に認められたと言っていいでしょう。
久野真矢 研究室 https://peraichi.com/landing_pages/view/hisano-lab

貴社では、マインドフルネスを職員研修にも活用していますか?

(松藤社長)当社の職員は日々のやりとりを通じ伝えていますので、特別研修は行っていませんが、外部から頼まれて研修をすることはあります。

医療者がエビデンスをもとに行う研修だと安心していただけそうですね。

(ことみさん)はい。先日も一般企業の職員研修を頼まれ行いました。リーダー研修がとくに好評です。「部下に対し思いやりを持って接するようになった」と言われることが多いです。

一回で効果がありますか?

(松藤社長)一回でも変化は感じられるでしょうが劇的な効果が上がることはないでしょう。ただ、続けて受けていただけると、コミュニケーションは良くなり好循環が生まれると思います。当社の場合は、人間関係を理由にした離職は、ここ10年ありません。人間関係は組織の基盤ですから、業績も次第に上がってくるでしょuね。

今、ビジネスの分野では、「心理的安全性」が確保された組織が成長すると言われています。

(松藤社長)それはあるでしょうね。人が定着すると落ちついた経営ができますし、コミュニケーションが良くなると意見交換が活発化します。当社も業務改善や利用者さんに寄り添った意見など日々いろいろなアイデアがでますよ!これは経営上ありがたいことです。私たちより介護スタッフさんのほうが利用者さんに心理的距離が近くニーズをくみ取っていることが多いですから。

経営者がマインドフルネスな状態でいることは経営上のメリットも大きいということですね。貴重なお話をありがとうございました!

生産性や集中力向上、コミュニケーションに効果があることみさんのマインドフルネス瞑想は、YouTubeでも体験することができるそう。詳しくはこちらから。https://mindfulness-online-lab.com/juku

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