medical&care「それいゆ」
医療と介護それから地域 つながる・価値創造
編集部コラム

とよなか縁結実に見る、新しい公共の形

本来、医療相談は医療機関が応じるもの。しかしそれでは不十分だと感じるケースも多くなってきています。

それいゆ8月号で「とよなか縁結実」さんを取材して考えたのは、医療機関や介護施設の説明の在り方です。本来、医療相談等は医療機関等が応じるもので、そのことに異存はないと思いますが、しかしそれでは不十分ではないか、と感じるケースが多くなってきています。

たとえばアドバンスケアプランニング(ACP)について

高齢多死社会の進展に伴い、地域包括ケアの構築に対応する必要があるとの観点から、2018年には「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の改定が行われ、近年の診療報酬にも影響してきています。

ガイドラインには、

  • 患者本人の意思というものは、状況に応じて変化しうるものであること。
  • そのことを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われていること。
  • その話合いは繰り返し行われることが重要。

と記載がされていますが、医療機関が関わるのは、通常、その決断が間近に迫ってきた時から。「都度」というわけにはいきません。しかるに、現状の説明の在り方でもって、この規定に十分に対応できている医療機関はかなり少ないのではないでしょうか。

人は必要に迫らないと動かない、動けない。

たとえば、行政の説明もジレンマを抱えています。

行政職の皆さんは、住民のことを第一に考え、工夫を凝らし制度等の周知に努めておられますが、私たちは切羽詰まらなければ、情報収集に動かない。「自然災害が起きた後にハザードマップを探しても遅いのに」とは思うのだけど、人間というものは、そういう動きをしてしまいます。

その人自身が日ごろから情報収集を行い知識の積み上げを行っていかなれば、大切な決断を迫られたとき、本当の意味でベストチョイスはできない

行動経済学では、人の思考は、早い思考と遅い思考の2つがあるという理論があります。プロスペクト理論で有名なアメリカ合衆国の心理学者であり行動経済学者、ダニエル・カーネマンが言う、直感的、感情的な「速い思考(システム1)」と意識的、論理的な「遅い思考(システム2)」です。

多くの場合、命に対する選択は、ある日突然迫られます。その時に働くのは、たいてい速い思考だと考えられます。自分自身のことであれば、数日、あるいは数時間、自身の価値観と照らし合わせ、システム2を使って答えを出すと思うのですが、もし、これが家族のことだったらどうでしょう。直感的な思考に支配された行動を選んでしまうかもしれません。

ただ、システム1が必ず誤りということではありません。システム1は経験や積み上げてきた知識から導きだされるとっさの反応ですから、平時から情報収集をし自身の中で蓄積しておくことで、より好ましいものに変わる可能性を秘めています。だからこそ、「納得した医療」を掲げる医療機関には、日ごろから、できれば重篤な病気にかかる前から、地域住民に向けて、意思決定の在り方についての啓発、情報提供を続けていただきたいと願ってやまないのです。

とてつもなく忙しい医療現場に第3の手法

日々流れる業務で手一杯なのに、病気になる前からの啓発活動…出来ないですよね。「それいゆ」も数々の取材のたびに、いつもそう思ってきました。だからといって現状のままでは、あまりに苦しくないでしょうか。一人ひとりの最終段階に向き合うことはミクロですが、マクロはミクロの集積です。多死時代を前に整えておくべきことのように考えます。そのような問題意識をもって、市民と医療従事者をつなぐ「とよなか縁結実」さんを取材すると、医療機関における「情報提供のための第3の手法かもしれない」と可能性を感じてしまいました。

相談業務のバリューチェーンを変えることができるのでは?

ボストン・コンサルティング・グループは、全てのバリューチェーンを自社で持たず、コアになる機能のみを持つオーケストレーターモデルを提唱していますが、こちらをヒントに市民と医療従事者をつなぐ「とよなか縁結実」さんを見てみると、するとわりとすっきりしませんか?

バリューチェーンは、(一般の職種の場合)企画/調達/製造/販売等といったそれぞれの業務が連鎖的につながり、最終的な価値が生み出されるとする考え方です。

左が代表的な事業モデルで、一般企業の場合、企画/調達/製造/販売等といったそれぞれの業務が連鎖的につながり、最終的な価値が生み出されます。医療機関の場合は、受付→問診→診察→投薬→会計という流れが連鎖的につながっています。このケースの場合、人生の最終段階の決定につながる相談業務が入るスペースがありません。しかし、この部分を右図のように外部に出すことができ、生活の中で徐々に知識の蓄積が出来たなら…。説明不足のジレンマは今よりは解消され、患者はより良い選択ができるかもしれません。外部委託される施設は、その他の医療機関と共有できると尚良し。新しい公共とはこうしたものではないか、と考えます。

生活の中で、人生の最終段階における大切なことを話し合える土壌があるといいですよね。
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ABOUT ME
瓜生千鶴
WEB SOLEIL 管理人。ヘルスケア経営研究所広報を経てM&Cパートナーコンサルティング所属。ミッションは医療や介護の現場で働く方の活躍を全国に広めること。つながりのある方にスポットをあてたりステージを用意することが得意。結婚を機にリモートワーカーへ。