パワーハラスメントによるトラブルが後をたちません。執筆メンバーの石井先生(社労士)も先日書いてくださいましたが、今年2020年6月1日より、パワーハラスメント(パワハラ)の防止は企業の義務となっています。いまのところ、大企業にのみ適用ですが、2022年4月1日からは中小事業主にも義務化されます。パワハラによるトラブルなどはもってのほか。トラブルが起きない組織風土を作りましょう。
パワハラなんて…そんなつもりじゃなかった…。
これ、よく聞く言葉です。たしかに、パワハラを起こした加害者によくよく話を聞いてみると悪気がないことも多いようです。「昔はこのくらい当たり前だった」と言う人もいます。「物事をスムーズに進めたいがためについ高圧的な態度をとってしまった」という人もいます。先日お話したある経営者の方は、「あまりに“できない”部下につい怒ってしまい、言わなくても良い余計な一言を言ってしまった」と落ち込んでいました(苦笑)。
取返しができないコトバ
物事を手際よく進めたいあまりについ高圧的な態度をとる。気持ちはわかりますが、言い方には気を付けましょう。相手の気持ちの地雷を踏んでしまっては「パワハラ」と訴えられかねません。立場的に優位な方の言葉というのは強い力があります。何気ない一言のつもりで発しても、言われた相手は傷つき、わだかまりを残すこともあるでしょう。ひどいケースでは離職なんてこともあり得ます。一旦口から出てしまった言葉というのは引っ込めることができないのですから、チームビルディングをする人は、自分の感情を徹底的にコントロールする必要があります。
注目を集めるアンガーマネジメント
アンガー・マネジメントというと「怒らない」技術と考えている人が多いようです。しかしそれは違っています。アンガー・マネジメントは、怒りに自分が振り回されないようにするためのスキルです。
そもそも怒りは、自然に湧いて出る感情です。起きれば抑えられないのです。だからこそ、コントロールが必要です。
コントロールするには、怒りを知る必要があります。怒りの発生源、怒った結果事態は変わるのか、などなど。アンガーマネジメントでは、怒るべき怒りについては正しく怒り、怒っても仕方がないことについては手放すことが大切としていますが、怒るべき怒りを知るためにも、怒りの本質を知ることが必要なのです。時々天候に対して怒りを爆発させる人がいますが、お天気に怒っても状況は何も変わりませんよね。そういう怒りは怒るべき怒りではない、というわけです。
6秒数える前にやるべきこと
アンガー・マネジメントでは、怒りの出来事が起きた時に「6秒数える」という有名なルールがあります。私も何度かやってみましたが効果がありました。ただその前に、まずは怒りを予防するという観点を持ってください。
先ほどの怒りを知ることに通じるのですが、「怒ってはいけない」と感情を抑圧していると、ストレスが溜まり、自分を見失ってしまいます。ですから怒りをそもそも発生しないように努めてみるのです。たとえば、
- 自分が何に対して怒りを持ちやすいのか
- どういう場面で怒りをコントロールしにくくなるのか
を調べてみることです。日本アンガーマネジメント協会(https://www.angermanagement.co.jp/)では「怒りの記録(アンガーログ)」をつけることを推奨されていますが、私も有効な手立てだと考えます。何に自分が怒るのか。そのポイントさえ知れば、怒りの源にそもそも近づかないよう対策できるでしょう。
予防策あれこれ
- 出来ない(と思っている)部下について、いつも怒ってしまうのであれば、出来ない(と思っている)部下を出来る(と思うような)部下にすべく方法を考えてみる
- 時間に追い立てられると怒りっぽくなる人であれば、余裕をもった行動を心がける
回りくどいやり方に感じられるかもしれませんが、「怒り」と上手に付き合うことは、円滑なコミニケーションを行うこと、パワーハラスメント防止に確実につながります。
医療や介護ではことさらに重要
以前取材させていただいた、四国の「医療法人社団 慈風会 在宅診療 敬二郎クリニック」の三宅敬二郎先生は、「看取りを患者さんやご家族さんにとって納得した形でやるためには信頼される必要がある。そのためにはアンガーマネジメントが必要だ」と語られていました。「病を受け止めきれていない人は、いらだちや悲しみが強く、攻撃的な場合も多い。そういった方と関係を構築するための必須スキル」とのこと。
アンガーマネジメントは、無用なトラブルを回避するだけでなく、自分や相手を満たすためにも必要なんですね。
参考
安藤俊介『アンガーマネジメント入門 』(2016)朝日文庫